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双方の合意はなく、贈与の意図もないが、税務上贈与を行なったとみなされる行為を「みなし贈与」と言います。
「みなし贈与」の場合では、当事者に贈与行為を行なったという認識がなく、贈与税の支払いを行わないケースが多くなりますので、みなし贈与が生じた際に贈与税の支払漏れがないように留意する必要があります。
今回は、「みなし贈与」とは何か?具体的なケースについて、わかりやすく説明したいと思います。
法律上は、贈与者が「財産を与える」という意思表示を行い、受贈者が「財産をもらう」という意思表示を行うことで、贈与契約は成立します。
例えば、3,000万円の土地を贈与者があげると意思表示を行い、受贈者がもらうと意思表示することで贈与契約は成立するため、贈与税が課税されます。
ここで、贈与ではなく、売買契約を行うことで贈与税はかからないと思われるかもしれません。
例えば、市場価格3,000万円の土地について、割安な500万円で譲渡する場合では贈与ではないから贈与税は課税されないと思うかもしれませんが、税務上は差額の2,500万円について贈与されたものとみなされ、贈与税が課税されるというものです。
「みなし贈与」とは
(法律上贈与により取得したとはいえないが、) 対価を支払わないで、または著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、利益を受けた者が利益の価額に相当する金額を贈与により取得したものとみなす(相続税法9条抜粋) |
財産を取得した事実や経済的な利益を受けた事実によって、実質的に贈与と同様の経済効果が生ずる場合には、税負担の公平の見地から、その取得した財産を贈与により取得したものとみなして贈与税の課税財産とする旨規定されています。
双方の合意はなく、贈与の意図もないが、税務上贈与を行なったとみなされる行為です。
「みなし贈与」の場合では、当事者に贈与行為を行なったという認識がなく、贈与税の支払いを行わないケースが多くなります。
税務調査に入った時に「みなし贈与」のことを初めて聞いたという方が多いようです。
みなし贈与について明確な基準が法律で定められているわけではなく、個々の具体的事案につき社会通念に従い合理的に判定すべきであると考えられています。
「著しく低い価格」 としての目安は、土地取引であれば、「時価の80%未満の価格」を指すと判断されています(東京地裁 平成19年8月23日判決)が、個々の事案についてみなし贈与に該当するかは、専門家に相談をされた方が良いと思われます。
みなし贈与とされる可能性がある場面について、下記にて説明します。
① 株式・不動産の譲渡 ② 預金の移動 ③ 生命保険の名義変更 ④ 債務免除 |
① 不動産・その他資産の譲渡
不動産の売買について、過去の裁判で「時価の80%未満の価格」で取引された場合は、みなし贈与に該当するという判断が出されており、現在の譲渡における指針とされています。
不動産以外の資産でも同様の基準を目安として、譲渡における指針とすることがあります。
親族に安く不動産・その他の資産を譲渡する場面で、贈与税を回避したいということであれば、時価の80%以上の価格で売却を行うことに留意すべきです。
② 預金の移動
配偶者や子供に一時的に金銭を預ける場合も贈与と判断される可能性があります。
例えば、配偶者に1,000万円を預ける場合に、配偶者の預金口座に入金した場合では贈与としてもらったのか、預かっているだけなのか区別が付きにくい状況となります。
贈与する場合でも、預ける場合でも後から証明できるようにするために、事実関係を契約書等の書面で残すようにしましょう。
③ 生命保険契約について契約者変更を行う場合
生命保険契約について、配偶者や子などに契約者変更を行った後、解約や満期を迎え返戻金や保険金を受け取る場合は、生命保険契約に関する権利の贈与があったものとして、みなし贈与と判断されることがあります。
例えば、20年満期で満期時に2,000万円を受けとる保険契約を父親が締結し、15年間で合計1,500万円の支払いを行った後、保険の契約者を子供に変更し、子供が満期まで500万円の支払いを実施した場合についてみなし贈与を考えてみましょう。
満期で子供が受け取った保険金2,000万円から、子供が支払った500万円を引いた1,500万円についてがみなし贈与とされ、贈与税の対象となりますので留意が必要です。
④ 債務免除
子供に貸したお金を返すのを免除する行為も、「みなし贈与」に該当することがあります。
例えば、親が子供に1,000万円貸しているが、100万円だけ返せばいいという場合です。
この場合は、900万円贈与したとして贈与税の対象となりますので留意が必要です。
「みなし贈与」の場合では、当事者に贈与行為を行なったという認識がなく、贈与税の支払いを行わないケースが多くなりますので、みなし贈与が生じた際に贈与税の支払漏れがないように留意する必要があります。
また、個々の事例について、「みなし贈与」とされる判断は明確に決まっていない状況ですので、個別事案については、専門家と相談しながら取引を実行することをお薦めします。